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壮絶だったC型肝炎との闘い ①

2020.10.09 ガン メタボリック・シンドローム 人間ドック 医学一般 最新医学情報

今回のノーベル医学賞はC型肝炎ウィルスの発見に貢献したアメリカのNIH=国立衛生研究所のハーベイ・オルター氏、カナダのアルバータ大学のマイケル・ホートン氏、アメリカ、ロックフェラー大学のチャールズ・ライス氏が受賞しました。

肝炎を起こし場合によっては肝がんを発症させる肝炎ウィルスはB型、A型、D型、E型、C型、G型、TT型の順に発見されています。

C型肝炎ウィルスは1989年に発見されましたが、私が医師になったばかりのころは非A非B(ノンエーノンビー)と呼ばれ未知のウィルスでした。

A型は生ガキなどの食品から感染し一過性に治ることが多いウィルスです。

B型は感染者が給付金が国に請求できるようになりましたが、1本の注射針で複数の方に予防接種をしたことが一因であるためです。血液を介して感染するわけです。肝炎、肝硬変、肝がんの原因になりますが、C型ほどの重症化率ではありません。

すでに知られていた感染者の多いA、B型のウィルスを持っていないのに肝炎や肝硬変になる方がいてなぜだろうと考えていましたが、C型肝炎ウィルスが犯人だったのです。

 

C型肝炎ウィルスは輸血などで他人へ感染しますが、多くの場合経路は不明です。キャリアーと言って発症はしないが感染源にはなる方がいて危険です。健診や献血時には必ず有無を調べます。詳しく検査すると、発症するかや他へ感染させるかなどもわかります。

 

私は消化器外科医でしたが、外科医といっても手術だけではなくC型肝炎ウィルスとは戦ってきました。C型肝炎は様々な疾患の引き金となります。以下にご紹介したいと思います。

 

1、慢性肝炎

C型肝炎に感染するとすべての方ではありませんが、肝炎を発症します。一過性に治ることもありますが、7割が持続感染し慢性肝炎となります。当初は症状がないので、健診で肝機能異常などから診断されることが多いです。外来や健診でそういう方はよく拝見します。定期的な血液検査と腹部超音波検査を要します。たまに肝機能が急に悪くなることがあるので、強い倦怠感などが出た場合は速やかに受診しましょう。

超音波検査で肝臓が肥大してきたら進行している指標となります。

今では効果の高い抗ウィルス剤の投与で慢性肝炎の段階でウィルスの除去ができるようになったので肝炎の進行は避けられます。

インターフェロンでの治療は減ってきています。治療は最低2週間の入院で始まります。あらかじめ効果があるかどうかが分かるので、効果の高い方が対象です。高熱や食欲不振の副作用が出ることが多く苦痛の大きい治療でした。うつ状態が長く続くこともあり、もとより通院の長い方が多いので外来で一緒に戦った印象があります。

 

2、肝硬変

慢性肝炎の経過の中で一部が肝硬変を発症します。肝硬変の原因の6割はC型肝炎です。慢性肝炎と診断されて10年を超えると可能性が高まります。

肝機能が悪化して肝臓の表面がデコボコしてきます。肝機能が悪化して黄疸が出ることもあります。進行とともに腹水が溜まって腹部が膨隆してきたりします。その場合利尿剤を服用して溜まりにくくします。腹水が大量になると呼吸ができなくなるのでプラスチックの管を挿入して体外に出す治療もしばしば行いました。腹水の中にはアルブミンなどのタンパクが含まれているので凝縮して血管内に戻すこともあります。

慢性肝炎の段階で脾臓が肥大してきます。これは腸の血管の門脈の圧が高まったためで門脈圧亢進症と呼ばれます。脾臓が腫れると汎血球減少症となり赤血球、血小板などが破壊され貧血や出血しやすい状態になります。

また、門脈圧亢進症から食道静脈瘤を発症します。食道下部から胃上部にかけて静脈が拡張し場合によって出血します。胃カメラで定期的に観察し、出血の兆候があれば治療することになります。一つは効果療法というもので胃カメラから針の付いたチューブを挿入し静脈瘤に直接薬剤を注入し固めます。呼吸や心拍動で動いている2から6mmほどの細い静脈に針を刺しての注入はかなりの熟練が必要でした。その後胃カメラで吸引を掛けながら輪ゴムを掛けるEVL(内視鏡的食道静脈瘤結紮術)が開発され確実に安全に治療できるようになりました。

慢性肝炎は10年20年の長い期間を経て進行するので病識がない方も多く、静脈瘤があっても定期的に通院しない方が多くいました。そうするといきなり静脈瘤から出血し吐血することになります。吐血で来院する方の多くはこの静脈瘤か胃潰瘍、マロリーワイス症候群が原因です。

静脈瘤からはかなりの出血をしますし、血小板減少症を伴って止血しにくいので緊急にEVLをするか食道と胃をバルーンで圧迫するSBチューブを留置します。EVLが開発されるまではSBチューブしか選択肢はなく大変でした。このような場合は肝硬変の進行により血中のアンモニアが上昇して意識が混濁していて安静にできないため、術者も血を浴びる機会が多く危険な処置でした。

現在では肝炎の有効な治療があるのでこのような症例は激減しています。

 

②では肝がんの治療をご説明します。

 

 

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